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自殺について
大原 健士郎
1
1慈恵医大・精神神経科
pp.1958-1959
発行日 1972年10月10日
Published Date 1972/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402204462
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自殺との出会い
私と「自殺」との出会いは,もう10数年も前にさかのぼる.当時,インターン生であった私は,友人のすすめで,鎌倉のある救急指定病院に当直医として勤務した.昼間は大学に通い,夜はその病院に住み込んで,連夜当直をしたので,いろいろな患者に遭遇した.交通事故でかつぎ込まれてくる患者,胃けいれんで苦しむ患者,出産予定日が狂って急に産気づいた妊婦……今から考えても冷汗ものの毎日だったが,夢多い青春時代には,かけがえのない貴重な臨床体験であった.なかでも,自殺未遂患者は圧倒的に多かった.日によっては,一晩に2,3入の未遂者が運び込まれてきた.私は,彼らに胃洗浄をし,補液をし,警察や家族に連絡をとり……懸命になって彼らを実社会に送り帰す努力を続けた.彼らの多くは睡眠剤による自殺企図であったが,それにもいろいろなタイプがあった.覚醒後,再び自殺を企てようとするものや,「助けてくれ!」と叫ぶもの,看護婦を撲りつけて「なぜ助けたんだ.余計なことをするな」とくってかかるもの,何日間も全くしゃべらず,黙否権を行使するもの,自殺を誇らしげに語るもの,夜逃げをするものなど,全くさまざまであった.
患者をとりまく家族の態度もいろいろであった.はるばる北海道からかけつけるもの,何日も家族がやってこないもの,患者に会うなり,「はた迷惑だ.今度死ぬ時は人目のないところでやれ!」と呶鳴りつける父親,最初は手をとり合って泣いていた母と娘が,10分後にはケタケタと笑い出す例など,対人関係の複雑さをあますところなく見せつけられたものである.
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