とびら
心に100ワットを
金子 光
1
1東京大学
pp.13
発行日 1963年5月1日
Published Date 1963/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911920
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螢光灯が珍しかった頃は,つけてあるところとそうでないところとの違いを非常に意識して感じていましたがこの頃のようにほとんどの電灯は螢光灯になってしまいますと,大通りを歩いていても全然無感覚になってしまいました。しかし,ちょっと横道や裏通りにはいると,電気屋さんの店が,あたりの店より一段と明るく活気があることを見出すことができます。
ある村の公民館で,婦人会の幹部の人たちとの雑談の中でO先生がきかれたという記事をよんだのですが,それは,最近農村にお嫁にくる人が少なくて困るという話題のとき,ある青年が,「オレんとこは螢光灯を全部つけた,洗濯機も,テレビもいれた。だから嫁さん喜んでくるさ」といったところ,同席の主婦の1人が,「あんた,どんげに電灯を明るくしても,心が暗く冷たくてはだめだよ,百ワットの電灯をつける前に,心に百ワットをつけなせ」といってやったということでした。その青年というのは弟妹をこき使い思いやりがなく,母親が神経痛で畑にしゃがみこんだりしているとき近所の人がみかねて手伝ってくれたりしているという。青年は電気アンカを買って母に与え,買ってやった,買ってやったといいふらす。電気アンカを買ってくれるより腰の一つでももんでくれる気持になってくれる方がどんなにうれしいかと,母親は涙ぐむこともあるというはなし。
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