連載 限りある命をおしんで・4
土に生きる—子宮癌より
工藤 良子
1
1日赤中央病院癌センター
pp.45-47
発行日 1961年8月15日
Published Date 1961/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911454
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癌癒えしと素朴に喜ぶ老人の影ゆらぐ春の夕暮れ「俺,御前様たちの御恩は一生忘れねえあい。皆さんたちも元気になったば,俺の家さ遊びに来てけさい。うめえ野菜つこうんと食べさせるでな,きっと遊びさ来てけさい。」見送りに出て来た患者の一人一人に別れの挨拶をして,智楽婆さんは故郷へ帰って行った。
私はその後姿を見送りながら,お婆さんが語ってくれた数々の話の中から,無医村の悲劇,いまなおのさばる封建性と迷信,そうした生活にあえて耐久している村の人々のことを思いやった。福島の片田舎から単身出て来て,「しもが悪いだども,どこさ行ったら一番よかんべ」と言って交番のお巡りさんを驚かしたこのお婆さん。村の神様はお婆さんを一人で東京へ寄こした。信玄袋のような荷物をひとつ持たせて。働くことだけが楽しみのこのお婆さんは,恐しいことを知らない。それがまたこの人の寿命をのばしてくれたのであろうが。
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