ナースの意見
親せつな心
小林 芳江
pp.74-75
発行日 1961年5月15日
Published Date 1961/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911344
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ナースという職業に就いてまだ浅い私は白衣の天使に憧れたわけでなく,幼い時代に弱い体であつたためである。病気に対しての恐怖の中に十分の理解といたわりが欲しかつただけである。桜の花のほころび始める4月に私は家族と汽車の窓で涙で別れ,「しつかりやるんだよ」,「体に気をつけてネ」,親のはげましの言葉に私は涙が出るほどうれしかつた。煙に消えたはげましの言葉は私を1人ぼつちにさせてしまつた。初めて1人旅をする私にはさびしさの中に何か胸のふくらむ思を抱いたが,私にはそれだけの才能があるかどうか心配だつた。「3年間一生懸命にやつていけるかしら」自覚して入学したにしろ一応心配であつた。桑畑を両側にはさんだ汽車は長く長く感じられた。下車したときには同じ学院に入る人でにぎわつていた。数分後に市内を走るバスが来て目的の病院前で止つた。貴女達の先輩よと温かく迎えてくれた上級生の顔は親切心と笑顔で大変ほほえましく,明るかつた。さすがに白衣の天使といわれるのもまんざらウソでないことを痛切に感じた。消毒液の匂つた長い廊下をきよろきよろしながら寄宿舎へと案内され,重いスーツケースも上級生の手で運ばれた。私達は急にさびしさから抜け出し安心感を抱き,このすばらしい上級生の下に勉強実習出来るかと思うとうれしくておちつけなかつた。
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