とびら
かたづけ
金子 光
pp.1
発行日 1961年5月15日
Published Date 1961/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911325
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五月の声をきいただけでも,心の中にさわやかな緑の風が通りすぎるような思いがしますし,明るい光が家の内の隅々にまで輝やきわたる感じです。1年中で最もみんなに愛され,よろこばれる季節でしよう。外が明るくなると,家の内の汚れや雑物が目立つてくるといわれることは自然なことで,冬の間の寒さと暗さに不精を許されていたことが,急にうとましくなつてきます。家の内を整とんして,住みよい,暮しやすい生活をととのえる必要は,みた目や住まう気持のよさばかりでなく,能率的で,合理的です。私の友人に『あんまり家の内がキチンと片づいていて,チリ一つ落ちていないのは,とても冷い感じがする』『家庭は子供がいて,ちらかしてあるところにほのぼのとしたあたたかさを感じるものなのだ』という人があつて,意見のいい合いをすることがありますが,そのことはよく理解できます。ただ,子供がいて家の内がちらかつていることと,必要なものを整理されていることとは別なので,やつぱりできるはずですし,子供には,遊んだあとの片づけを教育する必要があるはずです。それは『しつけ』という言葉で表現されているかもしれませんが,要するに生活教育だと思います。整とんするとか,片づけるということは,やつたことに対する単なる後始末だけの意味ではなく,目的は次の機会に備えてのむしろ準備であるわけです。
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