扉
紙とむだ
金子 光
pp.1
発行日 1962年3月15日
Published Date 1962/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911574
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戦前,戦後という言葉は今ではもう適当ではなくなったと思いますが,前後の相違の甚しさを考えるとやはり区分するのには便利な気がして使いたくなります。
昭和23年,パスポートNo.7というまだ国外にはあまり出ない時,アメリカに再度留学の機会を与えられました。配給生活のきびしさの中で留学の準備も殆どできなくてあるものだけで身軽に出発をしなくてはならない時でした。サンフランシスコに着いたとき飛行機にのるまでの数時間,街を歩いてみたのですが,あまりにも物資が豊かなので,当り前のことながら,ただ目を見張るばかり。東京のお菓子屋の店には空のガラス箱や化粧ケースばかりしかなかったのに,これでもか,これでもかというほど種類も多く,山積されていて,頭が痛くなった程です。薬屋や乾物屋が品物を取り出した空の大きなダンボール箱は山の様に道端に捨ててあります。紙のナプキン,紙のタオルまではわかるとして,紙のお皿やコップ,そして紙のオムツを1度使ってはどしどし捨ててしまう見事さ。買物をいれてくれる大きな丈夫な袋や強い紐など私はもったいなくて捨てられず,狭い戸棚を一層きゆうくつにするのですが心が安んじました。クリーニングから返ってくる時はカネのハンガーにかけ大きな紙袋で蔽ってありますが,そのハンガーも袋も捨てるのです。
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