連載小説
胎動期〔4〕
十津川 光子
,
久米 宏一
pp.71-75
発行日 1960年5月15日
Published Date 1960/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911103
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日曜日の集い
電車の窓から眺める久しぶりの郊外は,麦が青青と背を伸ばし,初夏の陽を浴びて舞う野菜畠の蝶を見ても,ごみごみした都会の閉じこめられた寄宿生活を送る春子とつてはすべてが夾やかで新鮮だつた。
こうした郊外のきれいな空気の中に,五坪ほどの小さな家でもいいから…………と語り合う和服姿の笠原婦長にも何となく親しみが湧いて,日頃気になつて離れない秋田なまりのことなどすつかり忘れた春子は,自然に話題の仲間に引き入れられ問われるままに故郷の農村風景を語つて聞かせたりした。
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