連載小説
胎動期〔8〕
十津川 光子
,
久米 宏一
pp.61-65
発行日 1960年9月15日
Published Date 1960/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911169
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怒り
男子禁制を誇る古ぼけた寄宿舎の玄関前を背景に,時には木枯し吹く夕暮れ,黄色いスポットライトの輪。こうして舞台装置と照明の整つた中で異色スターたちは熱演したが,観客たちの唯一の不満は,客席までセリフの届いてこないことだつた。
しかし,パントマイム劇を見慣れている客たちは,その芝居の筋書を充分に理解することが出来たし,足許に洗面器やバスタオルを散らしたまま反撃に出ようとする肥満した老婦長が,あわてて仲に入つた同僚の婦長に腕を取られ,傲然と胸をそらして腕組した看護婦上りのストリッパーの前から消えて行く幕切れは痛快でもあつた。
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