Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
菊池寛の『マスク』—スペイン風邪への対応
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.1212
発行日 2021年12月10日
Published Date 2021/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202388
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大正9(1920)年に菊池寛(1888〜1948)が発表した『マスク』(文藝春秋)は,「内臓という内臓が人並以下に脆弱であることは,自分自身が一番よく知って居た」と語る持病持ちの主人公が流行性感冒の感染に脅える話である.「身体丈は,肥って居る」という菊池寛自身を思わせる肥満体の主人公は,「一寸した坂を上っても,息切れがした」,「階段を上っても息切れがした」,「肺の方も余り強くはなかった」など,日ごろから心肺機能の低下を自覚していた.
そのうえ主人公は胃腸も害していたため,数年ぶりに医者に診てもらったところ,医者からは「心臓の弁の併合が不完全なようです」,「それに,心臓が少し右の方へ大きくなって居るようです」と言われた.この時主人公には心臓弁膜症や心肥大があったようだが,医者はさらに「あまり肥るといけませんよ.脂肪心になると,ころりと衝心してしまいますよ」と言いながら,次のように付け加えた.「火事の時なんか,馳け出したりなんかするといけません」,「喧嘩なんかをして興奮しては駄目ですよ.熱病も禁物ですね.チフスや流行性感冒に罹って,40度位の熱が3,4日も続けばもう助かりっこはありませんね」.
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