扉
最も大いなる心
pp.5
発行日 1955年9月15日
Published Date 1955/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909905
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肉体を害つて病床にある人の痛みをやわらげ,傷をいやし看護をするのは,「愛」に根ざす心です。肉体だけでなく,思いや考えなど,精神的ななやみをもつ人を慰め,はげます心は更に高い「愛」でしよう。併し,私共の世界には,それよりも,もつともつと高潔な「愛」が存在することを考えたことはありませんか?その「愛」は,自分に反抗する人,自分を好かない人,自分をいため,おとしいれる人を愛し,自分によくしない人によくしてあげ,自分に不親切な人によりよい態度で接することです。自分の好きな人,気の合う人と仲よくし,愛し合うことは誰れでも普通出来ることですが,この自分を好きでないばかりでなく,自分に手向う人を愛することは,非常にむつかしいことです。努力をしなくてはとても出来ないことです。
若い頃,大そう口やかましい患者さんがあつて,何をしてあげてもありがとうをいつたことのない人でありました。湯タンポを入れてあげれば「ぬるい」といゝお茶をもつていけば「あつくてのめない」という。西陽をさけてカーテンをさげれば「暗くなるじやないか」と叱られ,この患者さんの前を通るのは,本当にいやで,こわくて仕様がありませんでした。
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