講座
長期療養者の心理(その3)
千種 峯藏
1
1厚生省関東信越医務出張所
pp.16-21
発行日 1954年10月15日
Published Date 1954/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909651
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神経質で意見が多い
きまりきつた療養日課が,半年近くも繰返され,社会からうける刺戟といえば,新聞やラジオ等の報導機関を通しての間接な刺戟のみとなり日々の生活が,極度に単調化されてくると自然と,視野も狭くなつてくる。そうすると,心のスクリーンに写る物ごとの影像も疎らであるから,それに注意が集中される結果,後に残る印象は,はなはだ鮮かで,深く脳裏に刻まれるのである。従つて,普通の人,あるいは普通のときならば見落されたりあるいは,雑事に取紛れて忘却されてしまうようなことでも,長期療養者には鮮かな姿で脳裏に残つているわけであるから,自然,長く玩味されたり,こと細かに,詮索されたりすることゝなるのである。そして,その視野が,大体,療養生活という範囲に限つておるために,長期療養者にとつては,常に身辺のことがら,わけても,療養生活と最も関係の深い看護のことがらが,問題視されるわけである。
長期療養者は新聞の講読者であり,ラヂオの熱心な聽取者であるといわれる。これは淋しがりやから出たもので,重要な日暮しの方便であるには相違ないが,その結果に問題がある。時事問題に憤慨したり,はては署名運動にも展開しかねないのである。
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