発行日 1954年7月15日
Published Date 1954/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909598
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私の知つているアメリカの美術評論家に,物をたづねると,イエスと答える時とノーと答える場合のほかに,イエスアンドノーと答える時がある。イエスまたはノーと答える場合は,自分の意志がちやんと決まつているが,イエスアンドノーと云うときには,その理由を必ず説明する。人間の生活は複雑であり,社会の現象も珍奇にみちみちているから,簡単にわりきることができない。イエスとノーははつきり云えないのが本当なのかもしれない。
けれどもイエスかノーか,どちらかに人間の意志がきまらなければ世の中は混沌として,秩序がなくなり,なごやかな社会が生れない。いつも戸まどいした,困惑に包まれてしまう。ハムレットのように「生きるか,死ぬか,それが疑問ぢや」と云つて,いつも悩み苦しんでいたのでは,世の中は暗くなり,動きがつかなくなる。人間は一つの問題について,イエスとノーとのどちらかに定めなければならない。イエスアンドノーの答は特別な場合をのぞいては,ゆるされないことであろう。
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