この本、いかがですか?
ノーフォールト
名取 道也
1
1国立成育医療センター
pp.71
発行日 2008年1月25日
Published Date 2008/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665101152
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怖い。分娩を扱うことはこんなに怖いことなのだろうか。家族を犠牲にし,寝る間も惜しんで新しい生命の誕生のために一生懸命やってきた私が,一瞬のうちに法廷の冷たい壁の前に立つ。
この本は私の親友でもある現役の産婦人科医により書かれた小説であるが,著者は医師以外の多くのかたに読んでもらいたいと考え,普段書きなれている「論文」ではなく「小説」を書いて世に送り出した。産婦人科医や助産師にとり,これはすぐ隣にある日常であり,それも心が凍るような日常である。最善を尽くしていても起きる,予想もしなかった悪い結果。患者や家族はそれを医療事故と呼ぶ。小児科医が足りないと言われて久しいが,最近のほんの3年で産科医の不足がそれをあっと言う間に追い越してしまった。今や「お産難民」という言葉もしばしば聞かれるようになり,被害は医師の疲弊を越えて患者に及ぶようになった。しかしこの産科医不足の問題は表面にでなかっただけで,ずっと前から進行していたことが,限界を越えたとたんに噴出しただけである。
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