特集 ナースに必要な癌の知識
癌患者の心理
石垣 純二
pp.129-133
発行日 1954年4月15日
Published Date 1954/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909557
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私のいゝわけ
平林たい子の心理を書けといわれても私はちつとも狼狽しなかつたろう。けれども癌患者の心理にはまつたく閉口した。アメリカの大病院には専属の牧師がいるというが,そうした人なら,あるいは書けるのではなかろうか。臨床医でもなし,ナースでもない私が癌患者の心理がつかめようか。たゞ手がかりは無いわけではない。病跡学というが,例えばゲーテの書いたものを研究して,彼の躁鬱症をつきとめるといつたやり方。これをちよつと応用すれば癌患者又はその家族の手記を種にして,癌患者の心理を追究できないものでもない。他に書いてくれそうな人も皆無だという編集部の嘆きに負けて(昔から嘆きに負けて損をくりかえしている癖に)この小文を引き受けることとなつた。書きたくて堪らず書いたものではないことを断つておかないと,衞生教育家の私がこんなものを書くのを冷評する悪友がいて危なくてしようがない。
私が材料に取り上げたのは次の4冊である。このうち,長与又郞博士は肝臟癌の転移,尾谷弁護士は食道癌,「一郞」の主人公は癌ではないが親類筋の骨髄性白血病,ガンサー二世は脳腫瘍(グリオーム),まあ俗語にいう癌の仲間ばかりである。
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