名詩鑑賞
乞食—ツルゲーネフ生田春月譯
長谷川 泉
pp.36-37
発行日 1952年12月15日
Published Date 1952/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907207
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イバン・ツルゲーネフに人間としての自覺を與えたものは,皮肉にも彼の肉親の母親であつた。彼の母は大地主である貴族の財産を相續した,いわば特權階級であつた。その上彼女のヒステリーは有名なもので,農奴に對して殘忍非道な仕うちで臨んだ。このような風景を眺めて育つたツルゲーネフの胸のうちには,幼な心にも,人間が人間として扱われない農奴制度に對する疑惑と憎惡の念がきざしたのであつた。
そして,彼の學んだ擧問は,そのような矛盾に對して近代的な視點を與えていつた。彼はドイツに留學してヘーゲル哲學に接し,そのかたわらスタンケービツチバクーニンなどの進歩的な思想家と交際した。
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