発行日 1952年3月15日
Published Date 1952/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907017
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“Lady with a Lamp”,即ち「燈火をもつ淑女」は,勿論あのナイチンゲールを女主人とした劇であります。今手許にこの本がありませんが,私の記憶に,あでやかな印象を残しているのは,ナイチンゲールが,まことに強い女性であつたこと,又女史が封建制度の残滓がみちみちていた,當時の英國に於いて,どんなに男性の,横暴と云うよりは,むしろ無視と蔑視と戰わねばならなかつたかと云うことであります。クリミヤ戰爭のみじめさの中に,兵士は,敵も味方も,傳染病のまんえんと,重傷に,手あても受けず,死んで行つたのであります。そしてこの戰場の眞只中にのりこんだ,ナイチンゲールは,「女のくせに」,「女だてらに」「女の下になんか働いてやるものか」周圍の感情に態度に,歯を食いしばりながら「我が道を」たたかいすすんだのであります。
爾來幾星霜,今日の看護婦の地位は立派に打ちたてられたのであります。立派なお醫者さんも,その手足である看護婦さんなしには殆んど無能力と云つてもいいほどです。重病になやむ人々は,クリミヤの兵士が,燈を片手に眞夜中,テントをまわるナイチンゲールが手を合せておがんだように,今日の看護婦さんにすつかりついているのです。まことにこれ程生き甲斐のある,聖職とも云うべき職業はないと存じます。
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