発行日 1949年12月15日
Published Date 1949/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906581
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ヨシ子さんの話
ヨシ子さんが上野の地下道からキークリッジ先生の孤兒院につれてこられた時は,多分8歳でした。多分というのは誰にもほんとうの年がわからなかつたからです。キークリッジ先生は虱の卵だらけの頭にくしを入れ,垢光りの體をごしごし洗つて二階の室に入れた時にはホツとしました。ところが困つたことが起りました。ヨシ子さんは畫間には,どんなおいしそうな御馳走をすゝめても頑として食べようとしないのです。それじや死んでしまうとおつしやるのでしよう。ところがますます元氣なのです。というのは眞夜中になりますと,ヨシ子さんはムックリと寢臺の上に起き上ります。そしてコトコトと階下に降りてゆくと,臺所で翌朝の朝御飯にとキークリッジ先生がつくつておかれたお薯をみんな食べてしまうのです。先生は困つてしまつて,ある晩ヨシ子さんが抜け出すと,すぐ起き出して階下へ行つてみました。ヨシ子さんは大きな口をあけてお薯をたべていました。そして先生をにらみつけて,「アナタ何をしにきたの」と言いました。先生はニコニコなさつて,「あたしね,ちよつと下に降りたくなつたので降りてきたのよ」とおつしやいました。「それならさつさとお二階へ上つていたらどう」とヨシ子さんが言いました。キークリッジ先生は黙つて二階のお室へ歸つて行きました。翌日先生は何とかしてヨシ子さんに三度のお食事を食べさせようとしましたが,やつぱり何んにも食べません。
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