発行日 1949年10月15日
Published Date 1949/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906543
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女らしさについて
女性に最も縁の遠い科學として,數學をあげることは女性の皆樣にも許して頂けると思う。殆んどすべての自然科學が傑出した女流學者を所有しているのに數學だけがそれを持つていない。物理化學におけるマリー・キューリー夫人のような光彩を放つ星がないのである。そういう意味で十九世紀末にストックホルム大學の教授をしていたソーニヤ・コヴァレフスカヤは1種の彗星的存在である。彼女の傳記は野上彌生子女史の名譯によつて,岩波文庫に,その小女時代の回想と,彼女の親友の手になるその續篇とが併せて刊行されている。文庫番號914-5の「ソーニヤ・コヴァレフスカヤ」がそれである。これは私の愛讀書の一つである。彼女の41年の短い生涯はある意味では,極めてすぐれた一つの魂の苦悶の記録だと思う。ソーニヤは晩年文學者として立とうとした程文學的才能に惠まれていた。だから彼女が自ら記した少女時代は,エーヴ・キューリーが書いたキューリー夫人傳の少女時代と同じように生彩變々たる人物といゝ,その牧歌的なロシヤの風物といゝ,愉快な,又しみじみした事件や性格の躍動といゝ,すぐれた人間的記録として獨自の存在を主張しうるものだ。彼女はロシヤからドイツに留學するために名儀上の結婚をして,その假夫と携えて,當時のヨーロツパの諸學の淵宗であるドイツの大學に逃れた。それが眞實の結婚に實を結んだのは,數年後2人が成業してモスクワに歸つてきてからである。
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