看護學講座
個人衞生
橋本 寛敏
pp.75-77
発行日 1946年11月15日
Published Date 1946/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906144
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
運動
動物は動かない植物に比して生活上の利益が多い。更に人間は上肢を體の移動のためでなく,生活作業に專用することによつて,利益が多い。これは主として手の小筋肉を巧に用うるのであるが,諸々の器械を操縦し,衣食住に要する器具を取扱ひ,字を書き,音樂を奏する等の巧劣は,天分の才にもよるが,練習の度による。同一操作を幾囘も幾囘も繰返すことによつて,神經の刺戟傳達經路に馴れが出來て,極めて容易に,其の操作を行ひ得るに至る。最初非常な注意と努力を以て辛じて行ひ得る如き作業も練習を積めば,殆ど反射運動の如く,自然に且つ迅速に行はれる樣に成る。
生きてゐるのに必要な運動には,吸呼運動と心臓の搏動とがある。呼吸節は隨意筋であるが,呼吸中樞の支配を受けて,無意識に呼吸運動が46時中行はれてゐる。肺のガス交換は生命を保持するに缺くべからざるものであるが,之が十分に行はれる樣な深い呼吸を常に行ふ習慣を養ふことが必要である。體操の一項目として深呼吸をするが,之は主として深い呼吸を常にする道を開くためである。數分間深呼吸をしたゞけでは利するところ極めて僅かである。之で習慣をつくるのだ。深い呼吸をするには,胸壁筋ばかりでなく,横隔膜を動かすことに心掛けねばならぬ。即ち腹式呼吸の練習が必要である。發聲訓練は此の意味で衞生上の價値がある。
Copyright © 1946, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.