連載 Clinical Ethics—臨床倫理について考える・2
臨床倫理とは何か(その1)
浅井 篤
1
,
福井 次矢
1
1京都大学附属病院総合診療部
pp.164-167
発行日 1998年2月1日
Published Date 1998/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661905530
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クリニカル・エシックス(臨床倫理)の目的と背景
クリニカル・エシックスは,「今,この患者に何がなされなければならないか?」を決定することを主目的とした,臨床医学におけるバイオエシックス(生命倫理)の応用分野である.個人を原点とする人間主義と権利概念をその根底に持ち,医療従事者の専門職としての道徳的義務を軸とした伝統的な医の倫理とは根本的に異なっている.
バイオエシックスは学際的に生命をとらえようとする新しい考え方で,1960年代末から70年代に米国で生み出され定着した.この時期,生命科学,医療などの領域では著しい技術的進歩が見られた.人工透析,臓器移植,医学的に安全な人工中絶,出生前検査などが可能になり,集中治療室や人工呼吸器が普及し,患者が死亡する場所は自宅から医療施設へと変化した.また遺伝子工学もこの時期に誕生した.医療,医学における大きな技術革新と,生命に関する知見の深化,拡大は,それまでの生命に対する理解の枠組みのみでは解決不可能な諸問題を提示し,生命操作,脳死と臓器移植や延命治療のあり方など,さまざまな問題が議論され始めた1).
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