連載 カラーグラフ
JJN Gallery・10
『外科手術』—葛揆一郎画
酒井 シヅ
1
1順天堂大学・医学部医史学
pp.870-871
発行日 1996年10月1日
Published Date 1996/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661905181
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絵の場面は日本病院の手術室であろう.看護婦のキャップに赤十字のマークがついている.術後に手洗いを済ませた医師が看護婦に手術着を着せてもらい,手術がいままさに始まろうとしている.手術台に横たわり,執刀を静かに待つ患者はおそらく乳がんの手術を受けるのであろう.手術室の雰囲気はいまに比べてのんびりしている.手洗いの設備とガーゼ滅菌用装置があるが,無影灯もなければ,麻酔装置もない.手術台も華奢である.手術室に窓があり,患者の頭が丸髷のままであるのも時代を感じさせる.
医師も看護婦も手術用の帽子もかぶらず,手袋もマスクもしていないし,白衣も手術着も丈が長い.しかし,欧米ではこの時すでに滅菌に対して厳格な処置をとり,手術用手袋やキャップも使われはじめていた.日本でも腹部手術の場合に,手術室や機械すべてを前日から石炭酸消毒するなど厳格な消毒,滅菌をしたが,この絵のような乳がんの手術では消毒を厳格にしなかったのだろう.
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