連載 カラーグラフ
JJN Gallery・9
『乳母』—アルフレッド・P・ロル画
酒井 シヅ
1
1順天堂大学・医学部医史学
pp.774-775
発行日 1996年9月1日
Published Date 1996/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661905157
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画題は「乳母」.初夏のある日,むずがる赤ん坊をあやしながら庭に出て,あやしているのであろうか.若い乳母の真剣に赤ん坊を見つめる目,赤ん坊をしっかり抱きかかえる腕,薬指の結婚指輪などから乳母が健康で人柄の良い人物であることが感じられる.赤ん坊は乳首を口に含んでようやく満足したのであろう.乳母の腕をいじる赤ん坊のやわらかそうな左手がそれを物語っている.二人を囲む芝生の緑と木々の静かな雰囲気の中で,赤ん坊が乳を吸う音が聞こえてきそうである.
ところで,この時代の上流社会の女性は窮屈なコルセットと長いスカートという服装でからだをしめつけ,運動するのはせいぜい日曜日の散歩だけであった.それだけに富裕な女性はひ弱で,繊細で,病的であるというのがお定まりであった.精神的にもちょっとしたことでショックを受けて倒れ,ブランディの気付け薬による気付け場面が小説にもよくでてくる.それだから上流社会では子育てを乳母にまかせるのがあたりまえと考えていた.乳母には健康で,性格の良い若い主婦が厳選された.医学書にも乳母の選びかたが書いてある.
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