連載 カラーグラフ
JJN Gallery・11
『科学と慈愛』—パブロ・ピカソ画
酒井 シヅ
1
1順天堂大学・医学部医史学
pp.974-975
発行日 1996年11月1日
Published Date 1996/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661905204
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科学と慈愛はピカソ16歳のときの作品である.後年のキュビックな絵と印象があまりにも違うために驚かされるが,若き天才ピカソが早熟な思想家でもあったことを物語る.19世紀は科学が急速に発達した世紀であり,その世紀末には科学の無限な発展が人類に幸せだけをもたらすと誰もが信じていた.科学と宗教は対立し,宗教的な曖昧さを捨て去ることが科学であると思われていた,その時代の作品である.ピカソは科学の威力を信じつつも,その限界を直感していたのであろう.科学と慈愛を対峙させて,宗教と科学の両立によって人類の幸せが得られると語っている.天才特有の鋭い感覚で科学のマイナスの面を予感してこの作品が生まれたのかもしれない.
南スペインの港町マラガに生まれたピカソを形容するフレーズは多い.世界的な画家!,戦争を憎み,抵抗した画家!,20世紀の巨匠!,20世紀の視覚芸術の展開を支配した人!と尽きない.しかし,ピカソのキュビズムの絵を奇体な絵と戸惑う人も多い.それでもあの豊富で,すぐれた配色を好む人は多く,よほど絵に関心のない人はいざ知ちず,ピカソの名前を知らない人はいない.
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