特別記事
音楽運動療法が人を癒すしくみ
野田 燎
1
1大阪芸術大学芸術計画学科
pp.229-233
発行日 1996年3月1日
Published Date 1996/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661905034
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音楽運動療法が患者の身体にもたらす作用を一言でまとめるならば,「ある事情により使用されなかったために退行した機能を,使用状態に戻すことで,脳の成長を促し,改善する」ということになろう.つまり,「使用状態に戻す」という作業が療法の具体的な実践のありようなのだが,さらに言葉を補うならば,療法は「環境の変化に対応しようとする脳の可塑性,学習性,代償性を活用し,いままで使わなかった,また使えなかった運動性感覚と認知性感覚を入力する」作業であると位置づけられようかと思う.重度の障害があるため,動けない,あるいは動かさなかった状態が脳の運動性神経回路と認知性神経回路の刺激を少なくしており,その結果として退化を余儀なくされたと考え,われわれは新たな音楽と運動の同時感覚入力を行なうわけである.
特に身体に麻痺を持つ患者の場合,外界の状況を触覚や視覚,聴覚を統合して学習する試行錯誤の時期を与えられなかったために,外界の状況を認識するのに不備が生じているととらえられる.つまり,身体内部と外部との連絡がスムーズに行なわれるように,各器官の経験を統合する機会を与えたならば,外界を認識し得たことの外界への現われとして,運動,動作が行なえるようになるのである.その裏返しの事象,たとえば,寝かせきりからどんどん退化が進み,病人でなくとも病人になってしまう寝たきり老人などの事例は,多くの看護職の知るところであろう.
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