連載 買いたい新書
“障害”は未来へ向かう羅針盤―障害者に迷惑な社会
西田 真寿美
1
1東京大学医学部保健社会学教室
pp.1146-1147
発行日 1994年12月1日
Published Date 1994/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661904706
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「脳性マヒによる不随意運動でタコ踊りするからだを歩行器にあずけ,私は日々街を闊歩している」この冒頭の一文には,押しつけられた“障害者らしさ”を返上し,“私らしさ”を積極的に開示していこうとする著者の姿があざやかに浮かび上がる.障害があっても,「毎日,いい仕事,いい遊び,いい仲間に恵まれて,おいしい酒が飲みたい!」著者にいわせれば実に単純な願いをこめ,一人の“酒飲みのたわごと”として挑発的につづられていく.世間に追従しない批評眼は,単に個人的な体験にとどまらない.その軽妙な筆先,というより鼻先(何しろ彼は,鼻の先でワープロのキーを叩く)にかかると,窮屈で迷惑な社会の中で生ずるたいていの不都合も未来を切り開くエネルギーに変換される.日々の思いの断片を笑いとばしながらも,社会に欠けているもの,必要なものは何かという問いがちりばめられている.
障害者が街を歩いていれば,たくさんの偏見や差別に遭遇するのが常だ.毎回しっかり怒らないと,当たり前の生活権,楽しみ,誇りがどんどん奪われてしまう,と彼はいう.社会保障に守られて人目につかぬ場所でひっそりと暮らす,けなげに障害と闘っている,そんなおきまりの障害者観にもまして,まるで無能者のように扱われることほど屈辱的なことはないのだ.正当な社会の構成員としては認められず,排除されたり,むやみに大切にされたりもする.
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