特集 現代の病める子ども—こころとからだ,そして社会
病を受け入れられない女児の苦しみ—症状に感情表現を託した糖尿病思春期事例
森田 秀子
1
1山口県立大学看護学部
pp.1008-1012
発行日 2000年11月1日
Published Date 2000/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661903588
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
子どもの認識や行動パターンは,成長過程における人との関係を通して学習される.人が対象に向ける感情は,言葉とともに口調や態度に現われ,時に相反する感情を示すことがある.言語発達の未熟な子どもたちは,言葉よりもこうした口調や態度に現われた感情を敏感に感じ取り,親や周囲が自分に何を期待しているかを認識し,その関係に適応する行動パターンを獲得していく.子どもにとって,親や周囲の大人からの無条件の愛情,問題を含めた子どもの存在の受容,努力や行為等への承認は,生きる意欲の源であり,自己の行動の良し悪しを決定する指標となる.これらを実感するために子どもは期待に応えようとしたり反発したりする.これらの充足によって子どもは安心,自信,自由を実感し,みずからを大切な存在と感じることができる.これらが十分与えられているか否かは大人の評価ではなく,子ども自身がどう受け止めているかによる.子どもの成長過程はこれらを大人から確認するためのさまざまな工夫と努力の過程ともいえる.
子どもが病気と付き合いながら生活するということは,多くの苦痛や生活上の制限が伴い,さまざまな場面で我慢することが求められる.苦痛や制限の継続はそれだけで成長欲求を阻害する大きなストレスとなる.我慢は行動面にとどまらず,病状改善という大義名分で子どもの不満や希望などの素直な感情表現や言語表現を阻害する傾向がある.
Copyright © 2000, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.