連載 DNAは、いつ統合失調症の秘密を語るのか・6【最終回】
希望を託して
糸川 昌成
1
1東京都医学総合研究所統合失調症・うつ病プロジェクト
pp.106-109
発行日 2014年1月15日
Published Date 2014/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689101273
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治験に参加したい
妹の治験が始まって4か月が過ぎ、年が明けた2月、東京に大雪が降った。回診のため6時半過ぎに研究所を出て、フェンスを開け松沢へ入った。夜明け前の松沢の森はいつもの漆黒の影絵ではなく、雪の反射で乳白色に柔らかく照らされた巨大な切り絵のように見えた。10センチ以上も積雪があったので、自転車はあきらめて病棟まで歩いた。牡丹雪が降り注ぐなか、静まり返った松沢の森に雪を踏みしめる音だけが響いた。肩に付いた雪を払いながら、妹がいる病棟のナースステーションへ入った。
夜勤者は、私に気付くと水中毒患者の体重測定をしながら笑みをつくった。そして、例の妹は昨晩もぐっすり眠っていましたよと言った。僕はありがとう、と礼を述べてからホールへ出た。雪明りで、いつもよりホールが明るい。
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