特集 病みの軌跡と回復
病に問いかけ,病を意味づけ,人生を選びとる—ALS患者と家族の回復過程
佐藤 弘美
1
1石川県立看護大学
pp.822-825
発行日 2000年9月1日
Published Date 2000/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661903547
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はじめに
筆者が看護婦としてこの病気の看護とは何かを考えるに至ったきっかけは,1人の筋萎縮性側索硬化症患者(ALS患者)と出会ったことである.その患者と家族(妻)は,この病気の治療法がないことをひたすら悔いて,怒り,病気に自分が振り回され苦悩していた.筆者は看護婦として何ができるかという問い以上に,治療法がない難病だということが自分の前に立ちはだかっているように感じていた.それは,この病気の病態や病気の行路について,患者の体験として語られたものをまだ十分に把握していなかったためである.実際にはALSという病気の患者と家族の声は,そのころもうすでに書物として多数出版されていたのである.
この病気1)は,中年以降に運動神経細胞(運動ニューロン)が選択的,かつ進行性に変性,死滅する原因不明の神経変性疾患である.臨床的には筋萎縮,筋力低下,痙性麻痺および球麻痺を主症状とし,発症後3〜5年で呼吸不全によって死に至る神経難病の代表的な疾患といえる.つまり,この疾患は徐々に進行し,重度の生活障害と生命の危険に陥りやすい進行性の慢性病ということになる.多くの場合,ALSの患者と家族は,徐々に進行する自分の病をどのように意味づけ,自分の生を生きるかを,自分たちに問いかけている.
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