特集 病みの軌跡と回復
こころの病とやわらかに折り合う—ある精神分裂病者の回復へのかかわり
遠藤 淑美
1
1川崎市立看護短期大学
pp.826-829
発行日 2000年9月1日
Published Date 2000/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661903548
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
マリリン・ローンズレイ1)は,コービンとストラウスによる病みの軌跡モデルの,実践的有用性を検討した論文で,慢性精神疾患を「始まりも終わりもない軌跡(timeless trajectory)」と表現している.
先日,私はある友人に誘われ,デヴイッド・ヘルフゴットというピアニストのコンサートに行ってきた.演奏中も止むことのない独語,曲の終わりのさっと余韻が切れるような立ち上がりの動き,何度も何度も繰り返されるおじぎ,そして不規則な,わずかに跳ねるような小走りの退場.けれども彼の表情は,喜びに輝いているようであり,3回のアンコールに応え,しかもとうとう一度も楽譜を準備することはなかった.そして抱えきれない花束を受け取り,頭をなでて感謝を伝える彼は,映画『シャイン』の主人公のモデルとなった実在のピアニストである.貧しいながら,厳しい父親の期待のもとに幼少時よりピアノのレッスンを受けた主人公は,23歳のとき,自らの演奏家生命をかけたラフマニノフの曲を演奏し,大成功を収める.けれどもそのとき彼の精神はすでに限界を超えていて,結局10年以上演奏から離れた生活を余儀なくされる.その後現在の妻と出会い,妻の深い愛に包まれて,再びステージに復活を果たすリアルストーリーである.
Copyright © 2000, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.