連載 臨床の詩学 対話篇・7
怪談
春日 武彦
1
1成仁病院
pp.74-81
発行日 2010年6月1日
Published Date 2010/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661101648
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怪談の神髄は、語り口にある。どれほど恐ろしい内容であっても、相応の演出や手順を工夫して語られなければ、その怖さは半減してしまうことだろう。逆に、名人の手にかかれば、なんでもない日常の一駒ですらが、不吉な影を帯びてくる。
アニー・ディラードという素晴らしい文章家がいて、1974年に『ティンカー・クリークのほとりで』という自然観察と思索とを主題にした本を書いている。彼女はこの本によってピューリツァ賞を受けている。その翻訳(金坂留美子・くぼたのぞみ訳、めるくまーる、1991)を読んでいたら、毒蛇の話が出てきた。ヨコシマガラガラヘビという危険きわまりない蛇が米国ヴァージニア州には棲息していて、めったに出会うことはないが、うっかり噛まれると致命的で、しかも噛まれたときには痛みを感じないらしい。
で、作者のディラードは地元で電話交換手をしているシンク夫人から、こんな話を聞かせてもらったという。
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