連載 臨床の詩学 対話篇・11
演歌的
春日 武彦
1
1成仁病院
pp.72-79
発行日 2010年10月1日
Published Date 2010/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661101704
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エイミー・ベンダーの「無くした人」という短篇小説は、寂しさに満ち溢れた小説である(『燃えるスカートの少女』所収、管啓次郎・訳、角川文庫2007)。主人公である青年は孤児であった。「両親は彼が八歳のときに死んだ─海で泳いでいるうちに波が荒くなり、互いに溺れる相手を助けようとしたのだ。少年が砂浜で、昼寝から目を覚ましてみると、ひとりになっていた」。彼は成長するに従い、ある能力を身につけていく。それは無くなった物、行方不明の品物を探し出す能力だった。
人は、ふとした拍子に物を無くす。いくら探してみても出てこない。理屈からすればあり得ない場所に、失せ物は居心地悪そうに横たわっている。記憶や推測では及びもつかないところにそれらは置き去りにされている。彼はそうしたものを見つける一種の超能力を持っていた。
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