連載 驚きの「介護民俗学」 ・3
女の生き方
六車 由実
pp.82-87
発行日 2010年6月1日
Published Date 2010/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661101649
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深い霧のなかで
35歳を過ぎたころだったろうか。自分がこれからどう歳を重ねていったらよいのか、ということを考えはじめ、その見通しがまったく立たないことに大きな不安を持ちはじめたのは。それまでただ仕事と研究とそして恋愛に邁進し、充実した人生を生きてきたつもりだったのだ。が、ふと気づいたときには、普通であれば結婚し、子どももいる年齢になっているのに、まだ私自身は何も将来の人生設計ができていないという現実に直面して愕然としたのである。突然深い霧のなかに迷い込んだような気持ちだった。
それから、言い知れぬ不安のなかでもがきながら、その不安を少しでも解消したいという思いが強くなり、村でのフィールドワークでは特に女性のお年寄りを中心に意識的に話を聞きはじめた。それまでは村の祭りや信仰をテーマに調査をしていたために、必然的に祭りの表舞台に登場する男性にお話を聞くことが多かったので、実際あまり女性たちに話を聞く機会がなかったのだ。でもそのときからは、研究のためというより、むしろ自分がこれから生きていくためのヒントを得たいというすがりつくような思いで、女性たちに話を聞くようになっていった。
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