巻頭カラー連載 A-LSD!病床からの誘惑・9
カルマとの対峙
甲谷 匡賛
,
久保田 テツ
1
1大阪大学コミュニケーションデザイン・センター
pp.1
発行日 2008年1月1日
Published Date 2008/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661101188
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- 文献概要
二〇〇六年の秋、甲谷さんの作品をDVDにまとめる仕事に携わった。彼がALSを発症して以降に描いた絵画を時系列順に鑑賞できるものだ。その作業のために、過去から順を追って作品を眺めていた最中、突然「カルマの樹」が僕を揺さぶった。この作品以前の甲谷さんの絵画には、世界を静かに俯瞰するように景色や人物が描かれていた。ところが突然「カルマの樹」では、一転して激しい色と線によって動的な一瞬が編まれている。曇った夜空を切り裂く天界の光に、今にも手を伸ばそうとする巨大な樹木。
甲谷さんが何を想ってこの作品を描いたのかは解らない。でも、僕が記録したビデオには、口にした食べ物を吐き出しながら咳き込む甲谷さんの姿が映っている。動かない身体に生きながら、それでも痙攣し身をよじる甲谷さんがいる。静かに世界と一体となることを望みつつ、それがかなわない”もがき“が、この絵画に現れているのかもしれない、と思った。
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