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はじめに
私は,脳外科医として40年にわたり,頭部外傷をはじめ脳血管疾患の診断・治療にあたってきました.最近は,長年通院してくださった患者さんも高齢になり,往診や訪問診療をする機会が増えてきました.
平成14年版『高齢社会白書』にもあるように(表1),当院においても高齢の入院患者さんでは脳血管疾患の既往歴のある方がもっとも多く,それらの患者さんでは当然,介護量も多くなっているのが現状です.かつては,患者さんとともに“病”という共通の敵と戦って,一喜一憂しながら安定期まで持ち込み,注意深くそれを維持してきましたが,退院後の患者さんのご家庭にまで入り込むことはありませんでした.長年の慣習として,家に帰ってからの生活は各家庭に任せてきました.しかし,在宅に移行した患者さんが良くなるのも悪くもなるのも家庭での生活次第であり,過ごし方次第では在宅での治療も可能となることを思うとき,医学的立場から,生活面,なかでもいちばん手のかかる排泄ケアについて,真剣に考えることが必要であることを痛感しています.
わが国では,病は医師が,ケアは看護・介護職が,と縦割に行なわれています.排泄に関する問題は,泌尿器科,皮膚科,内科,精神科,婦人科,人間工学等の多くの科・専門領域にまたがっていることが多いにもかかわらず,総合的に排泄を診る「排泄科」はありません.排泄ケアの方法論は従来の慣習のみが唯一のマニュアルになっています.医師は病のみを診て人間全体を把握して来なかったといえますが,その結果何がもたらされたかを,『高齢社会白書』や目の前の在宅患者さんによってつきつけられた感があります.多くの高齢患者さんが置かれている状況を思うとき,これからの時代は,排泄ケアを介護従事者まかせにするのではなく,医療の延長線上のものととらえ,医師の使命として改革していかなければならないと思います.
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