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◆カンボジア交通事情
カンボジアに住んでいて「便利だなー」と感じるのは,交通機関.いえ,遠方へ行く交通機関ではなく,ちょっと市場へお買い物とか,病院との行き帰りに使う“ご近所交通”.どこへ行ってもオートバイタクシー(モトドップ)がいくらでもいるからです.市場の周りにも列をなしているし,道を歩いていても「モトドップ?(モトドップはいるかい?)」と呼びかけてきます.遠くからでも人差し指を立てて手を上げているのが見えれば,それはモトドップのサイン.乗りたいときには同じように人差し指を立てて手を上げて返せばOK.
私にとってさらに便利になったのは,たくさんのドライバーが私のことを知っていて,もちろん住んでいる場所まで知っていること.市場の周りにスタンバっているモトドップは,私が市場から出てくるなり,「ニャックルー! タウプティア?(女先生! おうちへ帰るの?)」と声を掛けてきます.重たい荷物を持っていてもすぐに乗れるので,楽チン! それに,これまた安いからやめられない.2-3キロなら500-1000リエル(15-30円).すっかり歩かなくなってしまいました.日本にもモトドップがあったらいいですよね.
それに引き換え,遠くへ行きたいときにはちょっとたいへん.日本のように定期的に来る電車はないし(電車は限られた地域では走っているのですが,自転車のほうがはやいような気が…),定期バスもない.あるのは,タクシーと呼ばれる乗合自動車.これには多人数乗合のピックアップトラックと乗用車の2種類があります.乗用車のほうは普通のセダンで,ドライバーをいれて大人7人を乗せて走ります.トラックのほうは車内にこれまた7人,さらに,荷台に大きな荷物とともに乗れるだけ乗せる.時には運転席の屋根のうえに乗ったりしているのも見かけるほどです.1回の行程でできるだけたくさん稼ぐには,こうしないといけないのです.ちょっと危険ですけどね.セダンのほうも身動きができないほどキツキツですが,それでも高級とされて同じ距離でも割高.
AHCへは,たくさんの患者がこうした交通機関を使って遠くからやってきます.平均年間収入が300ドルに満たない地方の人たちにとって,病院へ行くための交通費は安くはなく,そのために1日延ばしにしていることがよくあるようです.多くのカンボジア人が最初に試す伝統医療をこころみてもよくならず,意を決して,親戚・近所から借金をして,なんとか交通費を搾り出してAHCへ来る.でも,来たときには手遅れで亡くなってしまうということもあります.子どもは死んでしまうし,借金は増える.これじゃ,家族は抱えきれないですよね.
もし,病院で子どもが亡くなった場合,家族には2つの選択があります.病院の近くのお寺へ直接搬送し,そこで火葬したあとにお骨にして家へ戻る.もう1つは,遺体を家まで搬送する.AHCでは,多くの場合が火葬後に家へ帰る(遺体を外から運び込むことは不吉と信じている人が多いようです)のですが,時に遺体を家まで連れて帰りたいという家族がいます.これで,最近,困ってしまいました.本当に困ってしまったんです.
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