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退院計画とその重要性
退院は,患者・家族にとって,しばしば入院以上に脅威や不安を感じざるを得ないものであり,単に入院中からの治療や看護を継続するためでなく,退院に伴って新たに生じる心理社会的ニーズに注意を向けるためにも,退院計画・退院支援が必要である.
退院計画(discharge planning)とは,手島によれば,「個々の患者・家族の状況に応じて適切な退院先を確保して,その後の療養生活を安定させるために,患者・家族への教育指導や諸サービスの適切な活用を援助するように病院においてシステム化された活動・プログラム」とされている1).また,アメリカ病院協会は,「患者とその家族が退院後の適切なケアプランをつくるのを助けるために利用可能でなくてはならない,部門を越えた病院全体としてのプロセスである」(アメリカ病院協会,1983)と定義している.
退院計画の目的は,①良質な患者ケアの継続,②入院が必要な他の患者による病院資源の利用,③退院時の社会資源の適切な利用,の3つを保証することである.
欧米では,退院後の適切なケアの計画づくりと,必要なサービスのアレンジまでが病院の基本的責任であり,入院中の医療の質を向上させるだけでなく,退院により始まる長期の療養生活に対しても専門的な立場から援助しなければ,もはや病院として社会的責任を果たせなくなってきていると認識されている.
一方,日本では,退院援助はまだ退院に関して,何らかのトラブルが顕在化しているケースに対しての,個別で特殊な援助としてしか捉えられていない.一般的に入院治療がほぼ終了した段階になってから退院援助を開始して,退院をずるずると遅らせたり,十分な援助をしないまま退院させている例も少なくない.退院後に関する援助なしに,強制的に患者を退院させるだけでは,孤立無援な患者・家族が問題を深刻化させたり,適切ではない病院に転院することにつながり,問題の根本的な解決にはつながらない.
入院医療は,その患者の生活を脅かしている原因を除去・緩和し,退院後の健康と生活を回復させ安定させるために行なわれるものである.基本的には,すべての患者とその家族に対して,退院後予想される問題を検討し,十分な援助をして退院していただくことが,病院にとって基本的な責務である.退院援助は病院の必須機能として通常業務に組み込むべきであり,病院全体としての業務基準や組織運営管理上の課題として検討すべき事項である.個別の「退院援助」ではなく,病院全体としての「退院計画プログラム」の明確化が,日本の病院に求められている課題である1, 2).
退院計画機能は,病院が良質な患者ケアを維持する上で必須のものである.退院後も医療は継続されるのであり,退院に向けたコーディネートは,入院中の病院の責任でなされるべきである.コーディネートは入院中のできるだけ早い時点,入院当初より開始する.ときには,入院前から関係部署や担当者(医療ソーシャルワーカー;MSWなど)に連絡を取る場合もある.
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