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セルフマネジメント支援の重要性
1981年に最初のエイズ患者がアメリカで発見されてから,すでに20余年が経過した.病気発見当初わが国では,他の感染症の歴史同様に「医療拒否」の問題があり,地域によっては適切な医療にアクセスできず,多くの患者の命が奪われた.この時代は,まさに医療者の消極的な態度が患者の闘病意欲に影響を及ぼし,医療機関での不適切な対応がますます一般人に偏見・誤解を与えたと言えるだろう.
1997年以降,治療法が著しく進歩し,入院・死亡者数の減少などのドラマティックな展開は,世界中の人々にとって朗報であった.現在までに16種類の薬剤が承認され,ケア内容も入院で行なう急性期・ターミナルケアから,外来で行なうセルフマネジメント支援へと大きく様変わりした.都心のエイズ専門医療機関においてはセカンドオピニオン外来が実施され,ようやくエイズ医療も選べる時代へと突入した.
HIV/AIDS患者は,20-30歳代の若年層が多いのが特徴である.療養以外に学業や仕事と両立し,「時間管理」というセルフマネジメントが求められる.また,携帯電話やインターネットを使用し,国内外から豊富な情報を入手しながら,「関連機関へ問い合わせ」ることに関しても身軽な印象を持つ.さらに,患者から医療や医療機関への要望は手厳しい内容も多く,「諦められない」必死さを感じる.
患者からの相談には,一刻を争う緊急性を要する場合もあれば,長期的な展望に立ってじっくり対策を練る場合もある.内容は,治療に関することを中心に,療養生活の具体的方法,仕事や進路,結婚・妊娠などのライフイベントや,社会資源の活用,家族等への告白方法など広範囲である.
基本的な対応は,患者の話に十分耳を傾け,問題点を整理し,医療機関で対応可能かトリアージし,不可能であれば関連機関を紹介する.相談内容が複雑であれば優先順位を考える.どんなに努力しても現時点では解決不可能な問題に関しては,誠実に対応し「難解,不可能である」ことの理由を述べる.これは,患者に期待を持たせてその後の決定に悪影響を及ぼさないために必要である.
相談対応する際,患者が問題として捉え,解決を希望しているかどうかを「確認すること」,そして優先順位の選定を患者と「話し合うこと」である.問題解決のために,患者の力で対応可能か,それとも家族等身近な存在で補完することが可能か,さらに各種サービスをアレンジすべきか検討するスキルが求められる.
HIV/AIDSに限らず,医療の高度化や人口の高齢化などを背景に,疾病は慢性化し療養生活は長期化している.患者が病を持ちながら長い在宅生活を継続するためには,高度なセルフマネジメント能力が求められる.医療者は,患者の潜在能力を最大限引き出せるアプローチを心がけ,患者が成功体験を重ねてセルフマネジメントに自信が持てるよう支援していけるとよい.そのためには,受診早期から,患者に「観察方法」や「相談の方法」,「問題の対処の仕方」を具体的に紹介し,それを実現するためには患者の努力も必要であることを説明する.また,その成長に根気よく付き合うスタッフの存在が必要となる.
ここでは,筆者が最近対応した,患者のセルフマネジメントを支援する事例を紹介する.
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