連載 ハローベイビー—神戸市立王子動物園子育てストーリー・10
クマの育児は飲まず食わず
谷岡 正之
pp.826
発行日 1998年10月25日
Published Date 1998/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611902019
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食欲の秋という言葉は動物たちにとってもぴったり当てはまる言葉だと思う.食べ物が豊富な秋に食べ込み,十分な栄養を身に蓄えて厳しい冬を乗り切るのだ.わが国にすむツキノワグマ(ヒマラヤグマの一種)も秋の終わりには丸々太って冬ごもりに入る.樹洞やほら穴で体温を維持したまま眠りに入り,体力の消耗を極端に防ぐ.えさのない冬を過ごす合理的な方法だ.
ところが,メスにとっては,この冬ごもりの間に出産という大仕事が待っている.穴ぐらの中は外界に比べて温かく,育児にもってこいだ.20cm,400gぐらいのベイビーは赤ならぬ灰色で丸裸,母親はお腹の下に隠し,鳥が卵を抱くように温めながらお乳を与え,舌で舐めたりしながら育児に励む.この間,母親は飲まず食わず,みるみるうちにやせ衰え,秋に蓄えた体の脂肪も使い果たす.
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