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人肉を食うの説
H
pp.629
発行日 1964年7月10日
Published Date 1964/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402200394
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文学作品として,人肉を食う異常なテーマを設定して注目されたものに野上弥生子の「海神丸」があつた。漂流船上,人肉を食うことの思いにかられた殺人事件が扱われているが,結局人肉は食われなかつた。しかし,設定された異常なテーマの迫力と,ひたおしのリアリズムはこの作品が発表された当時多くの注目を集めたものであつた。
その後,大岡昇平の「野火」が出た。戦争文学として出されたこの作品は,戦場の異常な限界条件のなかにおかれた敗残兵の実際の人肉食いを描いたものである。この作品は多くの外国語にも翻訳されて世界的な評価を受けた。そのほか武田泰淳の「光りごけ」もある。「光りごけ」になると人肉食いが,もつと哲学的,宗教的な高次元な問題と結びついての問題提起になつている。
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