特集 「母性」を心理学からとらえる
助産婦から大学心理学科に進学して
和田 佳子
1
1日本大学文理学部心理学科
pp.222-226
発行日 1992年3月25日
Published Date 1992/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611900528
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母親になることは
「助産婦さんはまだ若いから,きっとお産の経験はないのでしょう」。5つの白いベッドがある陣痛室で,30代前半の産婦さんが,まだ22歳の未婚の私に顔を歪めながら話しかけてきました。その産婦さんはすでに2回目の出産ですが,私は結婚もしていないし,妊娠・出産はもちろんのこと,陣痛の苦しさを乗り越えて母親になる気持ちを,とても実感することはできませんでした。
産婦さんの言葉の裏には,「陣痛の辛さは,経験していない人にはわからないでしょう」という思いが隠されていたのだと思います。そこで,私は出産経験がないことを伝えました。それを聞いても産婦さんは,「そうでしょうねえ」と,顔には何も出さずベッドに横たわったまま,周期的にやってくる陣痛に耐えながら,私のマッサージを受けていました。
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