外国の看護
ハイデルベルク大学看護学科
金子 光
1
1厚生省
pp.373-377
発行日 1960年5月1日
Published Date 1960/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541201661
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"アルト・ハイデルベルヒ"で青年の血を湧かせ,学生生活を限りなく謳歌する有名なハイデルベルグ大学,ドイツ国内では勿論,遠く東洋の果の日本にまで,世界的に名の知られた伝統を誇る権威ある大学,わが国ならさしずめ東京大学というところでありましようか。
ゆるやかに流れるネッカ河に沿つて,美しい緑の森のハイデルベルグの町,この町は,町全体が大学の構内のような感じがする位,至るところに大学の建物があり,寮があり,学生相手の酒場があり,そしてどこにも学生が群れている。河にかけられた頑丈な石の橋の袂には,いかめしい物見塔のある城門がある。そこを通ると,眼の前の丘陵の上に,歴史に輝くハイデルベルグの古城が,戦渦のあとをそのままにした姿でげん然と控えている。17世紀の独仏戦争で,無惨にも敗戦の憂目をみたこの町は,その傷あとをこの古城にまざまざとみせ,往時をしのび再起を誓い奮起する町の人々の祈りと希いが,その象徴としての古城をそのままの姿にしてあるのだという。そして1年に1回,町の記念日には,この古城が戦火で炎々と燃えあがる姿を再現させているのだという。私は幸にもその記念日を含めた数週間をこの町の大学に過し,寮のテラスの上から,夜空にくつきりと猛火にもえあがる古城の悲しい姿を眺めて,思いはいつか広島の平和公園に残されているやけたドームをしのび,胸をしめられるばかりでありました。
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