特集 「母性」を心理学からとらえる
摂食障害患者の治療における母性の役割
青木 紀久代
1,2
1東京都立大学人文科学研究科博士課程
2九段坂病院心療内科
pp.216-221
発行日 1992年3月25日
Published Date 1992/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611900527
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
痩身を求めて,摂食を極端に制限する症状で知られる「神経性食思不振症」は,すでに19世紀末から注目されている。近年では,「過食」の問題も多く取り上げられるようになり,また拒食の状態から過食へ転じる症例の多いことが指摘されている。いずれの場合も,痩せ願望や肥満恐怖があり,両者の間には多くの共通項を見いだすことができる。今日では,これらをまったく異なった疾患として区別するよりも,摂食障害として包括することが多い。
摂食障害の諸症状(身体症状,精神症状および症状の背後にあるとされる精神力動的意味等)の詳細をここで触れる余裕はないが,これらについてはすでに多くの著書や論文があるのでそれらを参照されたい。この中で,一般によく知られる心理的特徴には,女性性拒否,成熟拒否等がある。これらは,患者の強い痩せ願望と肥満恐怖の背後にあるものとされ,この点が誇張されてきた感がある。しかし,実際にはこれらを示さない症例も多く,今日ではむしろ本症の本質的問題は,Bruch(1978)1)にあるように,自我同一性の葛藤であり,患者たちは根強い自己不信と不全感にさいなまれている,とする見方が妥当なものとされ一般的である。さらに,個人の内的葛藤の所産としてのみ本症をとらえるだけでなく,環境との相互作用を含めた理解をしようとする立場が増えている。この考え方は,特に実際の治療を行なう際に有用である。
Copyright © 1992, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.