連載 いのちの詩を読む・5
いのちへの確信(歌/新川和江)
新井 豊美
pp.358
発行日 1988年5月25日
Published Date 1988/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611207372
- 有料閲覧
- 文献概要
現代科学の高度な発達の中で、いま、「いのち」はかつてないほどの危機に晒されている。海や河川の水質汚染、土壌の汚染、森林の伐採による生態系の破壊、フロンガスによるオゾン層の破壊、核の増大、そしてチェルノブイリ原発の事故のようなおそろしい災害が再びおこらないとは云えないような状況の中で、だが女たちは「いのち」を生みつづけている。それは女たちがまだ世界の未来に希望を失っていないことの証明であるとともに、「いのち」を生みつづけてゆく愛のこころが逆に世界の未来を救う、最も人間的な力であることを示しているのではないだろうか。
新川和江はその詩の中で一貫して「いのち」に対する女たちの愛を、美しい言葉でやさしく語りつづけている。詩人石原吉郎が「新川和江にあって、愛とは地軸の傾きと同義であって、修正の余地のないものである」とのべているように、この詩人の詩の力はなんと云っても「いのち」に対する高人のつよい確信が、全地上的なものにまで拡大され、一体化して感受されている、そのゆるぎなさにあると云えるだろう。
Copyright © 1988, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.