巻頭随想
出産の歌
渡辺 順三
1,2
1日本民主主義文学同盟
2新日本歌人協会
pp.9
発行日 1969年2月1日
Published Date 1969/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203695
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〈しろがねも黄金も玉も何せんに勝れる宝子にしかめやも〉という歌は万葉集にある山上憶良の有名な歌である.ここに歌われているように,子どもは何物にもかえがたい宝で,子宝といわれる由因である.この尊い子どもを母の胎内から無事に出産させる仕事をしている助産婦さんは,職業として大きな意義があることはいうまでもない.しかし現在の助産婦さんの職業人(労働者)としての労働条件や待遇などにはいろいろ問題があることは,私もいくらか知ってはいるが,それらについて意見を述べるほどの資格はない.
そこで私はいくらか専門にしている短歌のなかに,妊娠や出産や嬰児についてうたわれている作品をあげて,助産婦さんが外部から扱っている分娩,出産問題を,妊婦自身の内部の感情の動きや,社会環境との関係などを示してみようと思う.もちろん私はいま入院中で,手許に資料がほとんどなく,それに限られた枚数なので,きわめて不十分なものしか書けないのが残念である.
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