巻頭随想
期待される心像
松村 康平
1
1お茶の水女子大学
pp.9
発行日 1966年12月1日
Published Date 1966/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203303
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横浜からナホトカへの船内で,私はレーニンの伝記を手に入れた.図書室の本箱に,ガラス戸ごしに見えたのを,読みたいと申し出た.係りの人は鍵をあけ,その本をもっていってよいと言った.英語で書かれた部厚い本が,それ以来,いつも私のそばにあった.ソ連での滞在20日間に,くり返し読んだ箇所も多い.シベリヤ鉄道でモスクワまでの車中,読み続けて,乗り合わせた人と,その本の写真をなかに打ちとけることもできた.
私は,レーニンを意識にのぼせるようにして,モスクワにいた.学会開催中は,専門の心理学で頭がいっぱいのようでも,1日のうち幾度かは,レーニンを意識した.レーニングラードをはなれてワルシャワにたつその,ソ連にいた最後の日にも,私はレーニン博物館にいっている.そういう私には,レーニンの立像や坐像が,きわだって目についたかもしれない.そうでなくても,大学や施設の一室で私が話し合った相手の人は,レーニンの彫像なり写真なりを,背景にしていて,それはたやすく目につくものであった.
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