連載 スクリーンに見るユースカルチャー・16
期待に応える
小池 高史
1
1横浜国立大学大学院教育学研究科
pp.1014
発行日 2007年11月25日
Published Date 2007/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663100813
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好きで何度も見ている映画だが,気づいたら自分は主人公のギルバートと同じ年になっていた。同じ24歳でも,ギルバートには私と違って知的障害の弟と太りすぎた母親がいて,彼らの面倒をみなくてはならない。そのため生活に不満を抱えつつも我慢するしかないし,何もすることがない田舎町から出て行くことなど考えも及ばない。
ところで,彼はいつも人の期待に応えている。一家の生活費を稼ぎ続け,弟の世話をし続けるという家族の期待。町に大型スーパーやハンバーガーチェーンが進出してくるなか,昔からある食品雑貨店で働き続けるという町の人の期待。それらは,彼が最後まで町から出て行かない人間であるだろうという安心感から持たれる期待である。そんな彼の存在によって,彼に期待をかけ続ける人たちは自らの不満を少しだけ解消している。
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