らいぶらりい
—アラン著・石川湧 訳—幸福論
杉浦 衛
pp.46-47
発行日 1966年2月1日
Published Date 1966/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203133
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幸福になりたい!誰でもが願う,幸福とは一体何でしょうか?あなたは幸福ですか,と質問されたときすぐに答えられるひとが何人いるでしょう.むしろ,わたしは不幸なのだ,と信じている人の方が多いのです.だから幸福が美しく輝き,憧れの対象になるのです.しかし幸福というものは考えられるものではありません.自分で獲得しなければ得られません.けれど多くの場合つかまえそこなってしまいます.「幸福が家に訪れてきたとき,何と不器用にあしらったことか.しかし少女はそれをわるく思わないで,なお幾度となく訪ねてきた」—ゲーテ.心配はいりません.ゲーテのような詩人でもくやしい目に会っていたのですから.
さて,あなたのところへ訪ねてくる幸福を逃さないようにするにはどのようにつかまえたらいいでしょうか?アランはこの本のなかで次のように書いています.「第1の規則は,現在のでも過去のでも,とにかく自分の不幸について,けっして他人に話をしないということだろう.頭痛や,吐き気や,不きげんや,腹痛などについて語ることは,たとえそれを上品なことばでいうとしても失礼なこととみるべきだろう.不正や誤算などについても同様である.—中略—グチは他人を悲しませる,つまり他人がそういう打明け話を聞きたがり,慰めるのが好きらしいときでさえも,しまいにはいや気をおこさせる,ということである.なぜかというと,悲しみというものは毒のようなものだ.
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