映画紹介
『悪い女』(仏)
志摩 夏人
pp.45
発行日 1963年11月1日
Published Date 1963/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202647
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恐るべき悪女たち
並みはずれた悪女たちが,悪知恵の限りをつくして,欲望と野望を達成しようとする.裏切った男を殺し屋に襲わせる女(第1話仮面),夫と飽きたりない情人を一挙にしまつしようとした女(第2話フネール事件),恋人の妻を毒殺しようとする女(第3話街角の女)らの巧妙な殺人計画だったが,さらにその裏をかいた,恐るべき女がいた.ミステリーの仁義にしたがって,結末のドンデン返しは伏せるとしても,男たちをふるえ上がらせるには,申しぶんないお話しだ.げに,女の性のすさまじさには,敬意を表するほかはない.
フランス映画ならではの,エロティシズムとユーモア,そして残酷な美しさで構成された,皮肉な人生模様だ.オムニバス形式で,中世,近世,現代の,それぞれに時代は違っても,愛と野望のためには,思いもかけぬ大胆な行動をやってのける女体が,鮮烈な感銘を与える.とくに第1話≪仮面≫の公爵夫人(エドウィージュ・フィエール)が,危険を冒して毎夜忍んで来る恋人に逢うために,マスクをつけて,年よりも若くみせようと苦心するくだりは,愴絶な描写だ.すさまじい反面,また悲しいのが女の性でもある.
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