column
地獄で仏
大菅 俊明
1
1相川内科病院
pp.280
発行日 2002年10月30日
Published Date 2002/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402909041
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これは実際の話です.52歳男性.大学教授.診察室のドアを青菜に塩の様子で現れ,「体がだるいし食欲もない」と言います.「自分は肝硬変と診断されており,最近進行しているように思い,眠れない,講義もできない」とも訴えました.診察の結果,たしかに肝硬変はありますが,完全に代償されています.そこで,「肝硬変といってもパンが固いというのと同じで,慢性肝炎とはっきりした差はない.いまの状態は江戸時代だったら発見されず,健常人と同じ.積極的に活動しなくては人生の損」といささか乱暴な説明をしました.しばらくして来られたときは,これが同じ人かとびっくりするような元気な顔つきで,「韓国へ出張講義をしてきた」とのことでした.
その後,この先生は無事定年まで勤務され,さらには他大学の学長として活躍し,天寿を全うされました.このような例はしばしば経験されます.心臓(気管支ではない)喘息で起座呼吸している男性に聴診器を当てたら,一再ならず収まったこともあります.“病は気から”で,医学的に正確な説明が必ずしも患者さんを元気にするとは限りません.
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