らいぶらりい
—工藤良子著—限りある生命惜しんで癌看護の記録,他
池田 陽子
1
1東女医大准看学院
pp.44-45
発行日 1963年11月1日
Published Date 1963/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202646
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私はこの本を手にした時,そこに記されている癌という字をみて異様な興奮をおぼえました.私にとって癌というのは切っても切れない私の一生を変えたほどのことばなのです.私の母は癌で,それも癌の中でいちばん恐れられている胃癌で亡くなりました.私は今でも癌ということばを聞くとあのころのことを思い出します.ポンポンと張りつめたおなかを抱えて苦しんでいる母を慰め「かあさん癌でなくてよかったわね.癌はいちばん苦しいんだって」と言いながら母の手をこすったものでした.
母が亡くなる2週間ほど前母の病気がなんであり,あとどのくらいの命かということを父から知らされました.いつまでも泣きやもうとしない私に「泣くのはおよしかあさんに癌だとわかったらどうする.かあさんには知らせないでおくれ」と私の髪をなでながら父はいったのです.そのときはじめて今までどんな母のわがままにも少しも逆らわずに母の看病をしていた父を思いうかべました.そして私もそうすべきだと思いました.それからまもなく母の癌は食道にまで及びその後は氷片の味しかわからず,日一日と生命の終わりに近づいていったのでした.しかし母はこれ以上の看護はないと思われるほどの父の看病に満足そうでした.私はそのころを思い出すたびに母が調子がおかしいといって病院へ行ったとき,なぜお医者さまは癌を発見できなかったのかと悔やまれてなりません.
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